クリープハイプ@NHKホール

クリープハイプ@NHKホール
「みんなも演るほうもどんどん変わっていくと思うけど、変わったからこそ今ここにいられると思っています。変わりながら、ずっと一緒にいましょう」

クリープハイプの「全国ホールツアー2014『八枚目でやっと!九枚目でもっと!』」。全14ヵ所16公演に及んだツアーの最終地点=NHKホール2デイズの2日目、尾崎世界観(Vo・G)はそう言っていた。変わるということは、あなたの知らない自分になるということ。いや、むしろ、自分すら知らない自分になるということ。当然戸惑いだって恐怖だって伴うが、バンドを前へ進めるためにはそれらもすべて請け負ってでも変わっていきたい――そんな強い意思が読み取れるツアーファイナルだった。

クリープハイプ@NHKホール
「クリープハイプにとってホールツアーとは?」というテーマのもと真面目に語る尾崎に対して、長谷川カオナシ(B)、小泉拓(Dr)、小川幸慈(G)はどこかズレた回答をする……というなんともシュールなオープニングムービーで笑いを起こしたあと、4人がゆっくり歩いてステージ上に登場。「今までに見たことない最高のライヴをするから、今までに見せたことのない最高の顔を見せてください」と尾崎が挨拶すると、“寝癖”“愛は”“愛の標識”を3曲連続で披露。高い集中力を保ったまま、しかし無理に肩肘を張ったりせずにニュートラルなテンションで放たれていく冒頭3曲。「バンドがホールライヴをするとよくライヴレポートに『前半は緊張していたものの徐々に尾崎のヴォルテージが上がっていき……』みたいなことを書かれるんですけど、そんなこと書かれたくないから最初から行けますか?」なんて言いながら尾崎は会場を煽っていたが、1曲目のイントロが鳴ったその瞬間からごく自然に彼らの手中に収まったかのような、そんな余裕すらも感じた。

クリープハイプ@NHKホール
クリープハイプ@NHKホール
クリープハイプ@NHKホール
「レコード会社の曲を唄います」と紹介していた新曲では、長谷川&小泉のリズム隊による波打つ低音に乗って切り裂くような小川のギターと攻撃的な歌詞を放ち、“ウワノソラ”ではソリッドな音塊がキャッチーなメロディと尾崎のハイトーンヴォイスも相まって会場の上階や後方へと痛快に飛んでいく。珍しく長谷川がステージ前方を歩きながらクラップを煽っていた(コードに絡まってコケそうになるという場面も)“社会の窓”では「窮屈すぎて」「最高です!」の大合唱! ホールということもあって会場のあちこちから観客の声が降ってくる感覚も鳥肌ものだったが、高音でシャウトを繰り返す尾崎には鬼気迫るものがあった。そして“グレーマンのせいにする”“ベランダの外”といった尾崎&長谷川のツインヴォーカル曲を経て、“傷つける”へ。尾崎が、実家の愛犬・マルコに肩を引っ掻かれた傷について語りつつ、「嫌じゃない傷っていうのがあると思ってて。……1曲1曲丁寧に唄ってそういう傷をつけられたらなと思ってます」と言っていたが、彼らの演奏や楽曲は多くのファンにとってまさにそういうものであろう。楽曲一つひとつと真摯に向き合いながら丁寧に音を重ねていく4人の演奏は、「1か100か」というような両極端の表現ではなく、楽曲に込められた小数点以下の感情も細やかに拾ってくれるような表現になりえる。先ほどまでは腕を高く上げたり両手を思い切り叩きながら大盛り上がりだった観客たちの姿が目立ったが、“傷つける”では多くの人々が息を飲んでステージを見つめていた。

前日のライヴの疲れを取るために訪れたマッサージ屋にて、店員にバンド名を尋ねられても「クリープハイプって言ったときに『はぁ……』ってなるのが嫌だから」という理由で頑なに答えなかったという尾崎らしいエピソードを披露しつつ、「マッサージの知らないオッサンに言うのは恥ずかしいけど今日は自信を持って言えます。改めましてクリープハイプです」と挨拶をしたあとは“イノチミジカシコイセヨオトメ”や、性急なビートが鳴り響くなか、この日の会場入り~本番の様子などがスクリーンに映し出された“ホテルのベッドに飛び込んだらもう一瞬で朝だ”など、アッパーチューンを連投していく。最新シングルに収録の“エロ”では小気味よく噛み合う小川&長谷川のメロディラインがバンドのサウンドを先導した。

クリープハイプ@NHKホール
“ラブホテル”では大サビ前に一旦演奏を止めて「『夏フェスって一瞬の楽しみだし10分後には他のバンドで盛り上がるけどこの夏はホールでお客さんと向き合いたい』とかインタビューで言ったけど、ホントのこと言うと夏フェス出たかった!」と本音を漏らす尾崎。しかしステージ上に出現したミラーボールが光を散らすなか、たくさんの人々がピョンピョンと飛び跳ねるその光景は夏特有の煌めきを確かに内包していた。長谷川がオープニングムービー上での語り口のまま、「男と女、オスとメスというふうに生物は分かれると思うんですよ。でもLOVEで繋がってる以上共通の話題があって。……僕よりみなさんのほうがご存知だと思うんで大盛り上がりで教えてください」と客席へ呼びかけ、そのままステージ前方へと歩みイントロのソロを炸裂させると、“HE IS MINE”へ。「セックスしよう!」の大合唱、そしてテープキャノンが発射!とバンドの必殺ナンバーで会場を温度をさらに上げたあとはMCタイム。「長くなるけど……」と尾崎が中学1年生の頃にバレーボール部に所属していたときのエピソートを話し始める。必ず部活に所属しなければいけない学校で仕方なく入ったバレーボール部は練習が厳しい部だったこと、やりたいことをやっているわけではないその時間がムダに思えて嫌でしょうがなかったこと、練習試合で他校へ行くときに母親が水筒に入れてくれるアクエリアスを飲むことが唯一の楽しみだったこと……。それらを語ったあとの「今はレギュラーでやりたいことやって、たくさんのお客さんが席を埋めてくれて。改めて音楽やっていてよかったなと思いました。みんなも演る方も気持ちもどんどん変わっていくと思うけど、変わったからこそ今ここにいられると思っているし。変わりながら、ずっと一緒にいましょう」という言葉を受けて湧き上がる温かい拍手。そのあとに演奏された、インディーズ期のアルバム『待ちくたびれて朝がくる』収録の“バブル、弾ける”と最新シングル収録の“二十九、三十”はどちらも「変わっていく」ということについて唄った曲。「変わっていく」ことへの悲哀や苛立ち(“バブル、弾ける”)を知っていながらも、《前に進め 前に進め 不規則な生活リズムで》と唄う(“二十九、三十”)――こうして“二十九、三十”が彼らなりのマーチのように高らかに鳴り響いて本編終了。バンドがまたひとつ成長していく瞬間を目撃したような気がして胸がヒリヒリと熱くなってしまった。

アンコールではまず“左耳”を演奏。そしてダブルアンコールで11/5にシングル『百八円の恋』をリリースすること、そのタイトル曲は映画『百円の恋』の主題歌に決定していること、初回盤付属のDVDには「くそバレー2014」が収録されること、来年初頭から全国ツアーを開催することを一気に告知すると(詳しくはこちら→
http://ro69.jp/news/detail/110049 。ちなみにアンコール冒頭でステージ上に女子高生4人が乱入したのは、映画『私たちのハァハァ』の撮影だったのだそう)、“オレンジ”で終幕。「今年いろいろあって活動が制限されたけど、巻き返していくのでついてきてください」――そんな尾崎の言葉に応えるかのように、満場の拍手の音が4人の立つステージへと惜しみなく降り注いだ。(蜂須賀ちなみ)

■セットリスト

01.寝癖
02.愛は
03.愛の標識
04.新曲
05.週刊誌
06.ウワノソラ
07.社会の窓
08.グレーマンのせいにする
09.ベランダの外
10.傷つける
11.イノチミジカシコイセヨオトメ
12.手と手
13.ホテルのベッドに飛び込んだらもう一瞬で朝だ
14.憂、燦々
15.エロ
16.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
17.ラブホテル
18.かえるの唄
19.HE IS MINE
20.バブル、弾ける
21.二十九、三十

(encore)
22.左耳
23.オレンジ
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